2018年 9月 18日
Jippe van Ruiten
DSMエンジニアリング・プラスチックスの自動車担当のアプリケーション・デヴェロップメント・マネージャー
約10年前、自動車業界は、多量のCO2を排出する車に高額の罰金を科すことを定めた欧州連合(EU)の法案への対応準備を進めていました(具体的な罰金額は、1台で1kmあたり排出量120gの上限を超えた場合、オーバーした排出量1gあたり95ユーロ)。
当社のポリアミド46、Stanylは、タイミング・チェーン・ガイド市場で、低磨耗プラスチック・ガイドとして、わずかなシェアしか持っていませんでした。実際、この素材は、市販されている中で最も低摩擦の素材でしたが、大手自動車メーカーにはあまり知られていませんでした。タイミング・チェーン・システムは、その結果生じる摩擦から、燃費と排ガスに大きな影響をおよぼします。当社はこの事実を審議中の法案と関連づけ、確実なチャンスであると考えました。
私は長い一週間の仕事を終えた2009年のある土曜日の朝、自宅のキッチンに座っていた時のことを今でも覚えています。Stanylの摩擦性能とそれによるCO2排出削減を定量的に関連付けようと固く決意したのです。その朝、妻は外出していました。私はコーヒーをもう一杯作り、計算を始めました。計算し終えたとき、何か大きなものがここにあるとすぐに分かりました。この摩擦上のメリットは、Stanylの材料費としての追加1ユーロによって、自動車メーカーが95ユーロの排ガス制裁金を回避できることを示していました。
タイミング・チェーン・システムにStanylを使用することの潜在的な価値について理解してからというもの、私たちは直接的なお客様であるタイミング・チェーンのシステムサプライヤーだけでなく、自動車メーカーにもこれを説明する必要があると気づきました。最終的に罰金を負担するのは自動車メーカーだからです。Stanylの価値を自動車メーカーに確信してもらうことができれば、自動車メーカーがシステムサプライヤーにそれを使うよう求めることができます。2010年には、Stanylをテストした最初のOEMが、すべての新しいエンジンへの採用を決定しました。
しかし当社は、それだけに留まりませんでした。これは単なる科学プロジェクトではなく、事業に対する実質的な影響を持つ真のイノベーションです。当社はその価値を一層高めたいと考えました。そこでさらに低摩擦の素材、Stanyl HGR2を開発しました。そして、車種の一つでエンジンの改良を計画していたある自動車メーカーと協力しました。この自動車メーカーは、可能な限り最高の燃費経済性を生み出すことに注力し、HGR2を徹底的にテストしました。そしてそれが功を奏したのです!同メーカーはエンジンでの使用について検証を行い、それが2017年のSPEのオートモーティブ・イノベーション・アワードの受賞につながりました。受賞はまさに当社の皆が誇りに思えた瞬間でした。自動車メーカーの価値あるパートナーになれたことは、長年の仕事におけるクライマックスとなりました。
当社の成功の最大の要因は、国をまたいだ素晴らしい協働のおかげであり、それなくしては成し遂げることはできませんでした。日本のメーカーは中国のメーカーとは異なり、中国のメーカーは欧米のメーカーとは異なります。当社の素材に関する主張は同じですが、確信してもらうには各々に対して若干異なるアプローチで話をする必要があります。当社には世界中にその道のエキスパートがおり、その仕事はまさに見事でした。当社のミッションであるBright Scienceを貫くことができなければ、私たちはDSMでなくなります。そのために当社はこれらの材料の可能性を探り続けています。
さらに摩擦を減らせるか? それは私がここで働くにあたって最も楽しんでいるものの一つです。新しいことに乗り出し、取り組み、チャンスをつかむことにおいて限界はほとんどありません。
DSMエンジニアリング・プラスチックスの自動車担当のアプリケーション・デヴェロップメント・マネージャー
Jippe van RuitenはDSMエンジニアリング・プラスチックスの自動車担当のアプリケーション・デヴェロップメント・マネージャーです。同氏はフローニンゲン大学で高分子物理学を学び、卒業後、1988年にDSMに入社しました。