温度制御は、半結晶性エンジニアリング・プラスチックを用いたアディティブ・マニュファクチャリング(積層造形)において、重要な要素です

エンジニアリング・プラスチックとSomos SLA(光造形法)による3DプリンティングのグローバルリーダーのDSMが、自動車業界における25年以上に及ぶ知識を共有します。今日、この業界に適したより多くの材料に対する市場ニーズに対応するために、積層造形の用途と素材に関する知識において、グループでは協力を推進する方針を加速させています。DSMは、自動車市場のニーズを熟知しており、融解フィラメント製造(Fused Filament Fabrication、FFF)と粉末焼結積層造形方式(Selective Laser Sintering、SLS)、そしてSLA用の材料向けの高性能ポリマーを開発しました。このペーパーは、FFF向けの半結晶性ポリマーの開発と市場投入に関する課題に重点を置くものです。アプリケーション、加工、素材特性に関するDSMの豊富な知識を使用することにより、FFF、SLA、SLS、マルチ・ジェット・フュージョン(MJF)を含むモデリング技術によって、加工と素材組成を予測することで開発を加速することができます。 

プラスチックを用いた積層造形は、高まる複雑性に対する継続的に厳しい要件のある用途にも使用されるようになり、材料サプライヤーに対する追加ニーズが出てきています。融解フィラメント製造(FFF)または熱溶解積層法(Fused Deposition Modeling、FDM)を検討すると、バイオポリマーポリ乳酸(biopolymer polylactic acid、PLA)とより一般的なポリマーアクリロニトリルブタジエンスチレン(polymer acrylonitrile butadiene styrene、ABS)の2種のポリマーが現在市場を支配しています。これら2種の素材は、印刷挙動のよさ、値段が高すぎない、そしてPLAについては、より「環境にやさしい」など、いくつかの理由で人気があります。

これらの素材の欠点は、機械特性と熱特性が(特にPLAについて)圧倒的ではないことです。またこれらの素材は耐熱性と耐候性において優れているとは言えません。そのため、FFF式3Dプリンティング市場は、印刷性と使用特性に関するよりよい組み合わせを明らかに必要としています。つまり、熱可塑性エンジニアリングプラスチックの生産者は、FFFのための特別なグレードを開発する必要があります。しかし、FFF式3Dプリンターの生産者とその顧客は、熱可塑性エンジニアリングプラスチックはハードウェアの設計とソフトウェアの微調整を必要とする場合があり、加工条件に対する特別な注意を払わなくてはならないことを知る必要があります。

DSMは、複数のグレードのNovamid IDポリアミド6および6/66、Arnite ID PETP、そしてArnitel ID熱可塑性プラスチックの植物由来コポリエステル・エラストマーを含む、FFF式3Dプリンティングのための半結晶性熱可塑性プラスチックの小さなファミリを開発しました。多数のプロセスとアプリケーション向けのエンジニアリング・プラスチックの開発者そして生産者として、3Dプリンティング・プロセスに対する深い洞察が材料挙動を理解する鍵であり、この洞察がより迅速で正確な製品開発につながることをDSMは理解しています。 

FFF式3Dプリンティングの現状では、この技術の機械的能力はその熱力学的能力を超えています。プリンターは、最大約300mm/sの速度に対応できますが、熱可塑性エンジニアリングプラスチックが使用される多くの場合、熱接着が不十分であることで層間強度が優れないために、完成部品の機械的特性が適切ではありません。主要な問題は、印刷装置はフィラメントを高速で非常に正確に出力することができる一方、装置の能力がポリマーを十分に溶融する能力と一致していないことです。その次に、制御されたプリント・チャンバーは、より低い反り性で部品を印刷するのに役立ちます。 

このポイントまで温度を上昇させるためには、外部ヒーターブロックを用いてノズルの表面から熱を加えます。既に述べられているように、ポリマーの熱伝導率は低いのです(0.3w/mk)。したがって、ノズル出口で均一な温度分布に達するまでには時間がかかります。頻繁に使用されるホットエンドである英国の3Dプリンター部品サプライヤーE3Dの「V6」における熱バランスの数値シミュレーションを使用し、プリント速度の上昇に伴って温度分布の均一性がどれだけ低下するかを立証することができます。 

図1。高速プリント時の一般的なFFFノズルの温度分布。

図1に示されているE3Dの押出機のホットセクションにおいて計算された温度輪郭は、ノズル温度240℃、フィラメント供給温度25℃で達成したものです。使用されたフロー速度は、示された印刷速度を使用し、0.2mmの層、印刷幅0.5mmでのものです。また、より長いノズルにより、材料の加熱を強化することが可能です(E3Dの火山ノズルなど)。材料パラメーターはFFFプリンター向けにDSMが開発した植物由来グレードのコポリエステルTPCであるArnitel ID 2045のものです。

この効果に次いで、非晶質材料から半結晶性材料に変える場合、プリント環境の制御がますます重要になります。まず、制御された方法で材料を溶解することを確実にする必要があります。半結晶性の材料に向けたトレンドは、よりよい機械特性、長期的な熱安定性、耐薬品性などを含む、これらの材料の工学的性能によって推進されています。主な課題は、溶融構造から凝固状態に冷却する際に、一般的に結晶構造による収縮として知られている体積変化が大きくなることです。この収縮で反りが生じ、プリントの失敗につながります。FFFの一般的なビルドプレートはガラスでできており、ポリマーをガラスに接着した状態を保つため、このガラス基板から、接着剤を使用して部品を製作する必要があります。「反り」の力が大きくなりすぎると、部分的にガラスの界面が破損し、部品が基板から引きちぎれてしまいます。   

これを減じる方法は、プリント環境を「制御」し、より高い環境温度(ガラス転移温度であるTg以上)で印刷することであり、そうすることでプリント不良の可能性を最小限に抑えます。DSMは、FFFプロセス時の結晶性と熱挙動を予測するための分析モデルを開発し、プロセスにおいてどのように層が結晶化し始めるかについてよりよく洞察しています。加工設定を予測することにより、DSMではプロセス設定を調整し、反りの効果を減少することができます。もう一つの利点は、反りの制御を続けながら、うまくプリントができる材料パラメーターを入力し、材料のモデリングを行うこともできる点です。 

図2。層間の収縮効果。

図2は、ノズル内の温度の制御と分布およびプロセスが結晶化挙動に与える影響の可能性に関し、2つの例を扱っています。プロセスのすべてのパラメーター設定(プリント速度、溶解温度、ベッド、チャンバー、プリント速度)を用いてシンプルなジオメトリーをモデリングしています。DSMはこのデータをすべての材料パラメーターと統合し、プリント中を通した熱分布と結晶化挙動をモデリングし、今では特定の位置のプリント基板を確認できるようになりました。図3のプリントは、プリンティング時2.5mm、8mmのものです。すべてのパラメーターは、結晶化速度を制御するために変化することがあります。 

図3。プロセスのモデリング用のプリントサンプルのモデル。

図4は、プリントジョブ時の部品の熱履歴を示します。周囲温度は25℃で、加熱されたガラス基板の温度は125℃です。第1の層は約110℃ですが、高度なビルドのジオメトリーではその温度は約80℃です。ビルドが進化すると、加熱ベッドの効果は徐々になくなります。

図4。Tamb 25℃、Tbed 120℃での熱履歴と温度挙動。

温度履歴が分かっている場合、モデルを結晶化および体積収縮挙動とリンクすることができます。そうすることで、部品のビルド中に結晶化挙動を「制御」することが可能になります。図5、6、7、8の左のチャートは、特定の条件でプロットした温度履歴、右のプロットは結晶化変換を示しています。材料が完全に結晶化すると、値は1になります。異なる設定を適用した場合、結晶化挙動において層を制御できることが確認できます。右のチャートの点線は、標準PA6と付加製造用に最適化したPA6(Novamid ID 1070)間の差を示しています。結晶化速度の差が明らかに示されています。遅い結晶化速度は、複数の層を融合し、層間の接着をより強くするのに役立ちます。

図5。この図は、最初の層が最初に結晶化することを示しています。

図6。すべての温度が低い場合、結晶化が阻害されます。

図7。周囲温度が高い場合、最後の層が最初に結晶化します。

図5、6、7、8に示されているように、環境温度とベッド温度を制御することでプリントされたFFFの結晶化を制御することができます。図8では、それら両方の温度を100℃にした場合、反りを抑えながらNovamid ID1070(PA6)をプリントできることが分かります。 

反りを「誘導」し、末端使用部品だけでなく機能プロトタイピングに使用可能な部品を作ることもできます。結晶性に次いで、層間の融合強度に対する層の厚みとプリント速度の影響についてもモデリングすることができます。 

現在DSMは、プリンター材料の組み合わせに関する適切な設定を得るため、加熱チャンバーを備える新開発の機器の試験を実施しています。プロセスと材料パラメーターを完全に理解することで、反りが小さく強い部品を作ることが可能になり、自動車業界からの要求を満たすことができるようになります。

Published on

18 September 2018

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