ジュリア・バード（Julia Bird)　DSMヒューマンニュートリション　シニアアソシエイト・サイエンティスト

マルチビタミンの摂取はビタミン不足リスクの軽減に役立つ可能性があります。

私が栄養学を学んだ理由のひとつは、自分の生活に直接影響を与えるテーマを理解するためでした。健康的な食生活を送ることは私にとって重要であり、健康的な食生活に必要なものや食事に関する推奨事項の根拠を学ぶことは、私にとってとても興味深いものでした。栄養学を専攻して得た重要な教訓の一つが、健康に結びつく食事のパターンは一つに限らず、数多くあるということです。それにも関わらず、栄養学については誰もが個々の信念を持っているように思います。

栄養学で論争の的になっていることのひとつに、「サプリメントによる栄養摂取には本当に価値があるのか？」ということがあります。科学者やメディアがサプリメントの不適切な使用について批判的な論評を発表している一方、世界中に目を向けてみると栄養失調に苦しんでいる人は数多く存在します。ある包括的な研究によると、アメリカのような高所得国であっても、貧しい食生活を送る人は多く、サプリメントが適切な栄養素の確保に役立つ可能性があることが報告されています。たとえば、アメリカの成人のうち果物や野菜の推奨摂取量を満たしているのは10%未満で、45%は食事ガイドラインと比較して「貧しい」とされる食事をしていました¹。また、カルシウム、マグネシウム、ビタミンD、A、C、E、Kの摂取量は、かなりの割合のアメリカの成人において低く、サプリメントは微量栄養素の不足を補うのに役立つと考えられます²。混乱に拍車をかけているのが、既に半数以上の成人がサプリメントを使用しており³、サプリメント業界は更に拡大していることです。この論争において、私はいくつか現在の文献に載っていない点があることに気がつきました。

• 栄養不足の人にはどんなリスクがあるのか？
• どのような人がどういった栄養不足に陥るリスクがあるのか？
• サプリメント摂取は栄養素の欠乏症のリスクを軽減するのか？
• おおむね適切な食事を送っている人と比較して、サプリメントは、乱れた食生活を送る人の栄養不足リスクにどのような影響を与えるのか？

米国の疾病対策予防センターは、データが公開されている全国健康栄養調査（NHANES）を使用して、人々の健康と栄養状態を長年にわたって調査することにより、栄養研究者に優れたリソースを提供してきました。私と同僚は、栄養状態を示す生化学的マーカーが最も幅広く含まれている2003年から2006年の調査年を用いて、これらの疑問の答えを導き出すための研究計画を作成し、その後数値の計算に着手しました。

データによると、アメリカに住むほぼ3人に1人に栄養不足のリスクがあり、最も一般的に不足しているのはビタミンB6、B12、C、Dでした。年齢と性別のグループで見ると、19歳から50歳の女性のリスクが最も高く（41%）、社会経済的地位の低い人、非ヒスパニック系黒人、低体重または肥満の成人も同様であることが分かりました。 また、サプリメント、特にさまざまなビタミンやミネラルを含むマルチビタミンサプリメントを使用すると、栄養不足のリスクが低下することがわかりました。具体的には、サプリメントを摂取していない人の44％が欠乏症のリスクを抱えていたのに対し、マルチビタミンを摂取している人は16％、その他のサプリメントを摂取している人のリスクは40％でした。

食事に目を向けると、食事に関する推奨摂取量を満たすことが栄養不足のリスクの軽減に役立つことは明らかでした。私たちの分析では、すべてのビタミンやミネラルについてEAR（推定平均必要量）を満たしている人の栄養不足のリスクはわずか16%であったのに対し、最も貧しい食生活を送っている人の栄養不足のリスクは58%でした。こういった人に対しても、サプリメントは栄養不足のリスクを軽減する可能性があります。例えば、マルチビタミンサプリメントを使用した場合、サプリメントを摂取していない人と比較して、貧しい食事を送る人の栄養不足のリスクを70%から30%に軽減することができます。適切な食事をとっている人においても、マルチビタミンを使用していない人と使用している人の栄養不足のリスクは28%から5%に減少しました。 アメリカでは欠乏症リスクが非常に一般的であり、栄養不足のリスクが高いグループもあるようです。

バランスの良い食事をとることは、マルチビタミンサプリメントの摂取と同様に、栄養不足のリスクの軽減に役立ちます。バランスのとれた食事、サプリメント摂取を組み合わせると栄養不足のリスクを最も低く抑えることができます。